力道山だけではない!もう一つの黎明期――全日本プロレスリング協会創立と、テレビ初中継された「日米激突」の記憶

歴史の幕開け:大阪から興ったもう一つのプロレス熱気

 昭和29(1954)年1月、日本のプロレス史に刻まれる大きな足跡が大阪の地で印されました。力道山率いる日本プロレスと時を同じくして、大阪を拠点とする「全日本プロレスリング協会」が創立されたのです。初代会長には松山庄次郎が就任いたしました。

 所属選手には、かつてプロ柔道で木村政彦らと共に活躍し、ハワイ、カリフォルニア遠征を経て日本に本格的なプロレスを持ち込んだ実力者・山口利夫を中心に、大相撲の元前頭である清美川梅之が名を連ねています。さらに戸田武雄、市川登、大坪清隆、門川、長沢日一といった、黎明期を支えた猛者たちが集結いたしました。この創立の事実は、当時の産業経済新聞大阪版にも大々的に報じられています。

(産業経済新聞大阪版、昭和29年1月30日付朝刊第4面、大阪府立中央図書館所蔵)

 実は、山口と清美川は協会創立の前年である昭和28年7月18日、すでに大阪府立体育会館にて興行を開催しており、この時のメインイベントで山口対清美川の一戦が行なわれていました。そのメインを除くすべてのカードは、当時すでにお馴染みの興行形態であった柔道家とボクサーが戦う「柔拳(じゅうけん)」の試合で占められており、その中に新興のプロレスが組み込まれる形での船出となったのです。しかし、同年の12月8日と9日に同会場で行なわれた興行では、すべてのカードがプロレスの試合で構成されるまでに発展を遂げていました。

聖地を揺るがした熱狂:2日間で1万8000人の大観衆

 このような前史を経て、協会の創立を正式に記念し、昭和29年2月6日と7日の2日間にわたり、大阪府立体育会館にて記念興行が開催されました。この興行は単なる娯楽にとどまらず、当時日本中が注目していた「マナスル登山基金募集」という大義を掲げ、「日本対在日米軍プロレスリング試合」と銘打たれた国際色豊かな大会でした。

 日本中が新しいスポーツであるプロレスに沸く中、初日は8000人、2日目には10000人もの大観衆が会場に詰めかけ、地鳴りのような歓声が響き渡ったと記録されています。なお、この初日の熱戦は、試験放送段階にあったNHK大阪(JOBK-TV)によって生中継されており、これこそが「日本のテレビ史における最初のプロレス中継」であったとも言われています。

個性豊かな強豪たちと、のちの名レフェリー

 迎え撃つ「在日米軍」の外国人選手たちも、非常に興味深い人物ばかりでした。参加したのはヘンリー・ジョニー(ヘンリー・ジャニーとも表記)、ストラングラー・ジョニー(別名トミー・ジェミングス)、タイガー・ジャクソン、そして「在日米軍東南部王者」の肩書きを持つブルドッグ・ブッチャー(別名アンドリュー・ブッチャー)ら、屈強な5人です。

 中でも「キラー・M・ユセフ」として参戦した選手は、のちに日本のプロレス界において卓越した名レフェリー、そして名バイプレーヤーとして歴史に名を残すこととなるユセフ・トルコその人でした。彼らの激闘の様子は、産業経済新聞大阪版や東京新聞という東西の新聞紙面を大きく飾りました。

 力道山の陰に隠れがちではありますが、大阪の地から日本のプロレス文化を支えようとした男たちの熱い闘いが、確かにここに存在していたのです。

清美川対ジャクソン
(産業経済新聞大阪版、昭和29年2月7日朝刊付第4面、大阪府立中央図書館所蔵)
山口対ブッチャー
(東京新聞、昭和29年2月7日付朝刊第5面、国立国会図書館東京本館所蔵)

2月6日、2月7日のカード

  昭和29年2月6日(土曜日)、大阪府大阪市/大阪府立体育会館
  試合開始:午後5時
1)シングルマッチ(1本勝負)
   市川登  対  ヘンリー・ジョニー
2)シングルマッチ(1本勝負)
   戸田武雄  対  ストラングラー・ジョニー
3)シングルマッチ(1本勝負)
   長沢日一  対  キラー・M・ユセフ
4)シングルマッチ(1本勝負)
   清美川梅之  対  タイガー・ジャクソン
5)シングルマッチ(3本勝負)
   山口利夫  対  ブルドッグ・ブッチャー

  昭和29年2月7日(日曜日)、大阪府大阪市/大阪府立体育会館
  試合開始:午後5時
1)シングルマッチ(1本勝負)
   戸田武雄 対 ヘンリー・ジャニー
2)シングルマッチ(1本勝負)
   長沢日一 対 タイガー・ジャクソン
3)シングルマッチ(1本勝負)
   市川登 対 ストラングラー・トミー・ジェミングス
4)シングルマッチ(1本勝負)
   清美川梅之 対 キラー・マイク・ユセフ
5)シングルマッチ(3本勝負)
   山口利夫 対 ブルドッグ・ブッチャー

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